歯周病の方が矯正治療をする上で必ず知っておくべきこと

こんにちは。
この記事では、歯周病を抱える方が矯正治療を検討する際に直面する現実的な課題と解消方法について詳細に説明していきます。
「歯周病がある中で矯正治療を始めて本当に大丈夫なのだろうか?」「成功率はどのくらい?」といった不安や疑問に正面から答えるため、リスクを包み隠さずお伝えします。

本記事を読み終えた後は、矯正治療を進めるべきかどうかを判断するための重要な情報が得られるはずです。

監修

歯学博士、補綴専門医

黒﨑俊一

院長の黒﨑は、歯科大学で講師を務め、歯学部学生を指導しています。
また歯科医師向けの講習会で講師も務め、歯科医師の指導もしています。
さいたま市で4名しかいない補綴(かみ合わせ)専門医でもあります。


この記事でわかること
•歯周病と矯正治療の関係
•矯正治療のリスク、特に歯周病患者が直面しうる具体的なデメリット
•治療を進める際の「診断」と「計画」の重要性
•矯正成功に必要な条件や準備としての歯周病治療
•最終的に矯正すべきか、別の選択肢を検討すべきかの方向性

 

歯周病と矯正治療の関係

歯周病は矯正治療を難しくする厄介な要因の1つです。歯周病がある状態で矯正治療を進めてしまうと、歯を動かす際に想定以上のリスクが生じることになります。その理由は、歯周病が引き起こす「歯を支える骨組織の弱体化」にあります。

具体的には、矯正治療において歯を動かす力が歯根膜や歯槽骨に直接に力を加えますが、歯周病で既に骨が損傷している場合、その力がさらなる負担を引き起こし、歯茎の後退や歯の緩み、さらには歯の喪失に繋がります。
つまり、健全な歯周組織を持つ人であれば問題なく進む治療でも、歯周病を抱える人の場合には完全に状況が異なると言えます。

 

矯正治療で生じる力が歯周病に与える影響

1. 歯肉の炎症が広範囲に拡大し、歯茎のダメージを加速させる。
2. 力で骨がさらに減少し、「歯を支えられるものがない」という事態になる。
3. 歯肉が徐々に後退し、「歯が長く見える」ような状態になり、審美性を損なう。
4. 結果的に、健康な歯も損害を受けやすくなる。

 

特に歯周病は「静かな病気」と言われるほど進行がわかりづらい性質を持っています。そのため、矯正治療が気づかぬうちに症状をさらに悪化させてしまうケースが少なくありません。進行した状態では対応が難しくなり、場合によっては治療計画を全面的に見直さざるを得ない状況に陥ってしまいます。

 

矯正治療は「歯周病の進行具合」に左右される

矯正が可能であるかどうかを判断する上で最も重要なのが、歯周病の進行度です。矯正を進めるには歯を支える骨や組織が健康でなければなりません。しかし、歯周病が進行すると、この骨組織が失われるため、治療の可能性が極端に制限されるのです。

歯周病の進行度と矯正治療の可能性
歯周病の進行度合いによって矯正治療の可否や制限は大きく異なります。以下に進行度別のポイントをまとめます。

1. 軽度の歯周病(歯肉炎)
矯正治療は基本的に可能な場合が多いですが、注意が必要です。矯正装置の装着により炎症リスクが高まるため、セルフケアと定期的なメンテナンスが欠かせません。
• 重要なポイント
o タフトブラシやデンタルフロスを併用し、徹底的なセルフケアを実施する。
o 定期的に歯科医によるプロフェッショナルクリーニングを受ける。
• 適切なケアを怠ると、中等度以上に進行する恐れがあります。

2. 中等度の歯周病(進行性歯周炎)
条件付きで矯正治療が可能です。矯正治療前に歯周病治療を完全に行い、歯ぐきの健康状態と歯槽骨の安定を確保する必要があります。場合によっては全体の矯正から部分矯正への切り替えが必要となることもあります。
• 治療の目標
o 炎症の抑制と血流改善を徹底する。
o 骨再生療法(リグネラティブセラピー)などを併用し、骨の強度を高める。
• 注意点
o 歯周病治療が不完全なまま矯正を始めると、病状が悪化する可能性が高いため慎重に計画する。

3. 重度の歯周病
矯正治療は難しいケースが多いです。歯槽骨の喪失が著しい状況では、歯を動かすことそのものが歯の脱落や炎症悪化のリスクを伴います。まずは歯周病治療を最優先とし、矯正は将来的な選択肢として検討することになります。
• 代替案
o ブリッジやインプラント治療などの補綴(ほてつ)方法を選択する。
o 噛み合わせの改善を目的とした治療を優先し、審美的な矯正は控える。

このように、歯周病が進行することで矯正の選択肢が狭まり、最終的には「治療不可能」な状態に陥るケースも少なくありません。矯正を始める前の段階で適切な対処をすることがいかに重要であるかがわかります。

 

歯周病があるまま矯正治療に踏み切るリスク

歯周病が治癒していない状態で矯正を進めるのは、非常に大きな危険を伴います。

リスク1:歯の喪失リスクの増大
歯槽骨で支える力が弱まっている場合、矯正装置による力で歯そのものを失うことさえもあり得るのです。これは矯正治療全体が無意味となるだけではなく、事後の再治療も困難になります。

リスク2:歯肉退縮による審美的ダメージ
矯正で歯を動かすことで引き起こされる力は、歯茎を支える力を弱め、後退させる原因となります。これにより、歯の根元が露出して歯が実際よりも長く見える「歯肉退縮」が生じます。現在の審美的課題がさらに悪化してしまうため、矯正で期待していた「見た目の改善」が得られない結果に陥る可能性があります。

リスク3:炎症の全身への波及
歯周病は口腔内にとどまらず、炎症が全身に広がる可能性があります。特に矯正に伴って歯茎や骨に負荷がかかることで、炎症がさらに悪化し、心臓疾患や糖尿病など全身疾患のリスクが増加するとも指摘されています。

リスク4:治療費の浪費と患者満足度の低下
さらに、これらのリスクの先には、時間的・経済的な損失が待っています。具体的には矯正治療が途中で中止になったり、予期せぬ再治療が必要となることで、最初に描いていた未来と実際とのギャップが生じてしまいます。

 

矯正治療中に歯周病が悪化する典型的なシナリオ

歯周病がある状態で矯正治療を始めると、どのような問題が発生するのか具体的なシナリオを見ていきましょう。特に注意したいのは、治療中の口腔ケアが不十分である場合に発生する「悪化の連鎖」です。

シナリオ1:矯正器具が清掃の障害となり、歯垢が蓄積する
矯正装置はその構造上、ワイヤーやブラケットが歯の表面に固定されることで、通常のブラッシングでは汚れが取り除きにくくなります。特に歯と装置の隙間やブラケット周辺には細菌が溜まりやすく、放置するとそこから炎症が広がる可能性が高まります。
清掃のしにくさが「歯垢の蓄積→炎症→骨の損失」という悪循環を生むのです。

シナリオ2:歯周ポケットが深くなり、見逃された炎症が進行する
矯正治療中に歯肉炎が進行すると、歯周ポケットがさらに深まる恐れがあります。この歯周ポケットに多量のプラークや歯石が溜まりやすい状況は、医師のチェックを怠ることで簡単に悪化します。
「装置が邪魔でポケット内の清掃が不十分」な場合、特に注意が必要です。

シナリオ3:矯正装置による長期間の負荷で歯根膜が損傷する
矯正は継続的に歯を動かす力をかけますが、歯周病による骨の減少などで土台が不安定になると、その力が直接歯根膜や骨の減少を助長する結果につながりかねません。治療が進むたびに細菌が広がり、負荷が重なり、最悪の場合には歯根膜が傷ついて回復が難しい状態に陥ります。

シナリオ4:美しい見た目を取り戻すどころか後悔が伴う結果に
矯正治療は患者が「審美的な改善」や「健康的な歯列」を期待して行うものですが、歯周病との併発によって最終的な結果が期待と全く異なるものになることがあります。矯正治療後に歯肉退縮が進み、「歯が長く見える」状態、あるいは歯を支える骨が十分でないため「咬合力が低下する」状況に陥る患者も少なくありません。

 

歯周病の専門医による診断の重要性と正しい治療計画

歯周病と矯正治療を結びつける上で、歯周病の専門医の診断は極めて重要です。矯正の専門医といえども、すべてが歯周病の進行状況を正確に把握し、適切な計画を提供できるわけではありません。

専門診断のステップ

1. 歯周ポケットの測定
o 測定によって深さを確認することで、炎症の進行度や治療の必要性を正確に把握します。
o ポケット測定時に出血があると炎症が進行している可能性が高い状態。
2. 歯周病菌の特定
o 歯周病の進行を引き起こす細菌の特定検査を行うことで、適切な抗菌処置を計画します。
3. 3D画像による精密検査
o CTやX線画像で骨組織の状態を評価、治療の可能性を定量的に判定します。
o 矯正治療にかかる具体的リスクや今後の見通しを割り出します。

信頼できる専門医の条件

• 歯周病専門医と密接に連携を取る矯正歯科医であること。
• 過去の経験症例が豊富で、矯正と歯周病治療を組み合わせた実績があること。
• 初診で診断結果だけではなく、リスクまでしっかり説明する医師であること。

 

長期的な視点で見た矯正治療のメリットとデメリット

歯周病がある状態で矯正治療を進める際、短期的な効果だけでなく、長期的な視点からの利点と課題を十分に理解しておくことが必要です。計画的に進めないと、見た目の改善が得られないばかりか、口腔の健康全体を悪化させてしまう可能性もあります。

以下に、矯正治療を通じて期待できる長期的メリットと、避けられないリスクを具体的に考察します。

矯正治療のメリット:長期的な期待される効果

1. 歯並びの改善による清掃性の向上
歯並びが改善されることで歯の裏側や隙間の清掃がしやすくなり、磨き残しが減少します。結果として、むし歯や歯周病の再発リスクが低下します。これは、矯正治療が進行するにつれて実感できる効果でもあります。

2. 嚙み合わせの最適化
不正咬合が改善されることで、嚙み合わせが正しくなり顎や口腔筋の負担が軽減します。顎関節症のリスクも下げることができ、結果として成人後の口腔機能の持続的な安定が期待できます。

3. 審美性の向上
矯正治療後は、整った歯列によって笑顔が美しくなり、他者に与える印象が良くなるだけでなく、自分自身の自信を取り戻すことにもつながります。心理的な要因は特に見逃せません。

4. 歯の健康寿命が延びる可能性
他の歯を補助する役割として、全体的な歯のバランスが良くなるため、歯への過度な負担が軽減されます。これは、口全体の健全性を長期的に保つことに役立ちます。

矯正治療のデメリット:長期的に注意すべき課題

1. 歯肉退縮と審美性の喪失
長期間の矯正プロセスで歯茎が後退することはよく見られます。特に歯周病のリスクが元々高い場合、この後退が顕著に現れることで、治療後に「歯が長く見える」といった悩みが生じる可能性があります。

2. 治療の失敗による再調整と限界
歯周病を伴った矯正は非常に慎重な管理が必要であり、仮に途中で進行の抑制が失敗した場合には、矯正治療の計画そのものを見直さざるを得なくなります。その結果、費用や治療時間のさらなる負担が発生します。

3. 歯を支える骨・組織の限界
長期間矯正力をかけることで、歯を支える基盤である歯槽骨がさらなる損傷を受けるリスクがつきまといます。これは特に重度の歯周病が疑われる患者において顕著で、場合によっては歯の喪失を招きかねません。

4. ライフスタイルへの影響
矯正治療には装置の装着や月々の調整が伴い、仕事やプライベートへ少なからず影響を及ぼします。特に取り外し式の装置では、自己管理が非常に重要になりますが、これが徹底できない人にとっては負担に感じられることが多いです。

 

実例に学ぶ:矯正治療における失敗と成功の分岐点

実際に矯正治療を行った患者のケースから、成功例と失敗例について検討してみます。
それぞれのケースを通じて、注意すべきポイントを具体的に学びましょう。

成功例

40代男性、もともと中等度の歯周病を抱えるも、2年間の矯正治療を実施。

• 患者プロフィール
この患者は、もともと不正咬合(叢生)に加え中等度の歯周病を抱えていました。矯正治療を希望し、歯周病専門医と矯正歯科医の連携による治療がスタートしました。
• 治療プロセス
治療前に徹底的な歯周病治療を行い、日々の口腔ケアの指導をしっかり受けたことで、治療中も歯茎の健康を維持することに成功。メンテナンスを重ねることで矯正終了後も健康的な口腔環境を保つことができました。
• 結果
矯正後は歯並びが整い、嚙み合わせも改善。審美性以外に、日常清掃のしやすさや嚙み合わせ機能の向上が実感できる結果となりました。

失敗例

50代女性、進行性歯周病を抱えつつ無理な矯正治療を選択。

• 患者プロフィール
こちらの患者は、歯槽骨の大幅な減少が確認された重度の歯周病状態にありながら、金属系ワイヤーによる抜歯を伴った矯正治療を選びました。
• 治療プロセス
治療前の歯周病治療を終え、矯正を実施。一方、タイミング悪く重度の全身性の病気で免疫が下がり、歯周病が再発。炎症が悪化し、治療過程で矯正治療を停止し、再度歯周病治療を行うことに。
• 結果
最終的に矯正治療を終えたが、完了まで3年ほどかかることになり、治療費の負担も発生。審美的にも当初の予定よりも満足できない結果となりました。

 

矯正と歯周病治療を併行して行う際のコツ

歯周病治療と矯正治療を併行する場合、以下のポイントを押さえることでリスクを最小限に抑えることが可能です。

1. 歯周病専門医との密なコミュニケーション
治療中の小さな炎症反応にも即座に対応できるよう、矯正医と歯周病専門医の連携が求められます。

2. 日常ケアの徹底
矯正中は清掃が難しくなるため、部分用タフトブラシや歯間ブラシ、抗菌作用のあるマウスウォッシュの導入を検討してください。特に歯周ポケットの数値の大きかった歯の周辺のケアが鍵となります。
おすすめの習慣
• 毎食後のブラッシングを実践
• 歯間ブラシやフロスの併用
• 夜間の追加メンテナンス(マウスピース清掃含む)

3. 診断に基づく明確な計画
どのタイミングでどの治療を優先するべきかを明確にした上で進めることが重要です。無理な工程を強行しない冷静さも必要です。

まとめ:矯正治療が適切かどうかを慎重に見極めるために

歯周病がある状態で矯正治療を行うのは、簡単な選択ではありません。

矯正に伴うリスクがあるだけでなく、長期的な後悔や経済的負担につながることも決して少なくないのです。もし矯正治療を本気で考える場合は、事前の治療計画をしっかり立て、歯周病専門医との相談を徹底的に行うことが不可欠です。

「矯正したい」という強い想いがあっても、現実的に最善の選択肢とは言えない場合があることを、ぜひ慎重に判断してください。そして、健康で美しい歯を目指す旅路において、適切なスタートを切るよう心がけましょう。

 

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